お祭り。
 そう聞いて心騒ぐ人間は少なからずいる。
 行事の趣旨はどうあれ、寄り集まって乱痴気騒ぎに喜びを見出す人種はどこの世界にも居るものだ。
 特にこの日本に至っては顕著である。
 正月は晴れ着を着て神社へ詣で、盆には寺で念仏を唱え、暮れには十字架の下でメリークリスマスと叫ぶ。
 まぁ、簡単に言ってなんでもいいのであろう。

 それが隣人との隙間を埋められるものであれば。



学園都市七不思議 その四「おかしくれなきゃ」

    かいたひと:ことり




「とうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうまとうま」
 心の底からうっとうしい。
 もうかれこれ結構長い事、このイギリス製4次元ゴミ箱(食べ物限定)と暮らしている。
 ものを食べてるか寝ているか、どっちかしかしていない彼女がこう切り出す時は、決まってろくでもない事をするのだ。
 眉間に作ったしわを気取られない様に、決して振り向かず、手は今まで通りにシンクへたまった洗い物を片付けつつ。
 一度大きく息を吸い、吐いて、まずは覚悟を決める。
 何が起こっても驚かない様に、即座に大人としての対応をとれる様に。
「……呼ぶのは一回でいいっていったろインデックス。なんだなんだなんの用ですか。見ての通りワタクシめは非常に忙しいのですけれども」
 猿は目を合わせると襲ってくると言う。
 相手を認識する事で、敵か味方か、上か下か、まずそれが決まる。
 ゆえに目を合わせてはいけない。
 それは少なからずつけいる隙を相手に与える事になるのだから。
「とうまとうま、とうまってばー、うー、うー」
 視界の隅。
 やけに大きな影が揺れている。
 それはやけにゆったりとしているようで、たとえればベッドシーツを頭からすっぽりかぶった様な。
「だから今洗い物してるんだからちょっと待ってろってそれはなんの真似ですかインデックスさん」
 文句を言いに振り向く。
 ただそれだけの行動をこれだけ後悔するというのはそうない経験だろう。
 頭の中にはただただ振り向くんじゃなかった、無視するんだったと悔いだけが残る。
 にぱっと天使もかくやという微笑みを満面に浮かべ、彼女――いや、その生物? は言う。
「と、と――あれ、あれなんだよ、えーと……と、徳利or鳥取?」
 どこから突っ込んだものだろうか。
 まずは落ち着いて慎重に現状把握をする様に勤める。
 眼下にあるのは穴を開けたシーツに頭を通し、ひらひらと両手を揺らしながらとてもいい笑顔を浮かべる謎の物体X。
 続いてカレンダーを見る。今日は11月5日。
 さらに謎の言葉、徳利or鳥取。
 ここまでをじっくりと吟味し、導かれる結論を元に、彼は非常に合理的な行動を取る。
 すなわち――
「うー、うー、とうまとうま、徳利or鳥取! とっくりおあとっとりなんだよー、こっち向いてー!」
 全て忘れる事にして再び洗い物に向き直った彼に、なおもその物体は食い下がる。
 どうしたものだろうか。
 右手でぶん殴ったら全部消えて無くならないかなぁなどと考えながら、生暖かいコーラを飲んだような顔で視線を向けた。
「……ひとつづつ聞いていこうか」
 しっぽを振って主人に媚びる犬の様に、嬉しそうな顔でこくこくと少女は頷く。
「えーと……まず、そのカッコはなんだ」
「おばけなんだよ!」
 一つの迷いもなく、即答する。
 なるほど。
 床屋の帰りかと思ったが違う様だ。
 まぁエプロンを着けたまま客を帰す床屋もそうはいないだろうから、そこは納得しよう。
「……じゃあ二つ目だ。今日は何日だ?」
「11月5日だよ」
 カレンダーを見るまでもなく、きょとんとした顔で彼女は答える。
 なぜこんな当たり前の事を聞かれるのだろうと、よく分かっていない風で。
「三つ目。その……徳利だか鳥取はなんの事だ」
「だーかーら、徳利or鳥取! おかしくれなきゃいたずらするぞ、って意味なんだよ! とうま!」
 ふん、と鼻を一つ鳴らし、得意げに凹凸の全くない胸を張る。
 その様はまさにどうだまいったか、といわんばかり。
「……万が一ひょっとして、確率的にあり得ないとは思うが、もしかするとそれ……」
 そこで一度言葉を切った。
 これは口に出すべきではないのだろうか。
 神への呪いの言葉のようにも感じられるその言葉を紡ぐべきか。
 山より深く、海よりも高く悩んだ末に、ようやくに口を開く。
 そうしない限りは、事態は解決などしないのだ。
 決心して、導き出された結論を吐き出した。


「……トリックオアトリート、って言いたいのか……?」
「あれ?」
 

 

 


 結局、日本語って難しいね、の一言で全て片付けられた。


「目ぇ離しゃ年中食いまくってるくせに……よっと」
 そもそもTrick or Treatって英語だよな、とはかろうじて口に出さなかった。
 何も小さな女の子を完膚無きまでに叩きつぶしたい欲求があるわけでもない。
 せめて最後の一線だけは越えないようにと、なけなしの理性をすり減らしてここまで来たのだから。
 涙無くしては語れない苦労の日々を思い返し、人知れずため息をつく。
 不安定なこの踏み台は、今のこの生活をまさしく象徴したものではないだろうか。
 そんな事を考えつつ、キッチンの最上段の棚――最後の最後の奥の手、超緊急備蓄食糧に手を伸ばす。
「とうま大丈夫? 危ないよ」
 木製の踏み台は多少ガタが来ている。
 こんなものをそうそう修理などしないから仕方ない。
 音をさせつつ右に左に、危なっかしくバランスを取る俺を見かねたのか、インデックスはとと、と近寄って踏み台を押さえてくれた。
「ああ悪い、サンキューな」
 棚の奥の方は踏み台に乗っても見えず、なおかつ捜し物はその辺にあるはずで、つま先立ちになりながら手探りで探す。
 しかしよほど奥へやったのか、はたまた地震とかで転がったのか、目的の物は一向に指先に引っかからない。
「とうま、何探してるの?」
 軽い体重で、それでも一生懸命に踏み台を抑えながら、足下から心配そうに声をかけられた。
「いや、このへんに缶入りのクッキーがあったハズなんだよ。避難時とかのために買っておいたんだけど」
「うん、おいしかったよ」
 ぴしり。
 瞬間に体がこわばった。
 ……聞き間違いだろうか? なんか今の会話の流れに不審な点があったような気がするのだが。
「……えーと、インデックスさん? ここにあったクッキー」
「うん、おいしかったよ」
 カチコチと、時計の音が静かな部屋に響く。
 この会話の流れを理解し、なおかつそこから導き出される答えを見つけるまで、およそ2分。
 とてもとても長い時間だった気がする。
「またか!? またうちの貴重な食料を無駄に消費したのかお前は! どんだけ俺を追い詰めれば気が済むんだ!?」
 そもそも俺ですら手の届かないところに隠したというのに、一体全体どうやって見つけたというのか。
 超自然の理すら無視して、この地球の食い物という食い物を食い尽くすまで行く気かこの食物掃除機は。
「いやあのとうま、それには理由があって」
 発狂寸前にまで追い詰められた自分はよほど恐ろしい形相をしていたのか、かなり驚いた様子でインデックスが怖々と口を開く。
 隠してあったクッキーを食べなければならないような理由があるとはとても思えないが。
「……言ってみろ」
 ふうふうと肩で息をして、必死に切れそうな血管を押さえつける。
 落ち着け。
 頭ごなしに怒るなど前時代的な廃れた風習だ。
 努めて真摯に、原因をきちんと加味した上で、手を取り合って解決法を望む。
 そうだ。これこそが今の世の中にふさわしい文明のあり方ではないか。
 同じ人間なのだから、話し合えば解り合えないことなど無い。
 自分を戒め、急速に冷えていく体温を感じる。
 ほら、ちゃんと成長してるじゃないか、上条当麻。
「おなかすいちゃって、つい」
「ふざけんなあああああああああああああああああああ!?」

 かくして今日も、罵声と鉄拳が乱れ飛ぶ。

 

 


 
 ……まぁ、詳しく聞くこともなかった。
 ついさっきやってたテレビのニュースで、米国ハロウィンのパレードが紹介されてただけなのだ。
 一を聞いて百までわかってしまったが、お化けの格好をしてトリック・オア・トリートと言えばお菓子がもらえるお祭りなのだと、そう理解したのだろう。
 我が家にある最後の甘味は先ほどの出来事で根こそぎ無くなったことが判明したわけだが。
 仕方なしに相手をしてやろうと思ったらこれだ。
 大体ハロウィンのニュースなんか今頃やるなよ、とも思う。
「……あの、とうま」
「なんだ」
 そんなわけでかれこれ小一時間ほど、人生と世間の渡り方についてお説教をしたわけだ。
 さすがに堪えたか、珍しくしゅんとした様子で、おずおずと口を開いてきた。
 何も俺だって鬼ではないし、謝れば許してやる。
 怒りたくなんか無いのは誰だって同じなのだから。
「おかしは」
「あるわけねえだろ!? お前今まで何聞いてた!? その耳の奥は異次元空間にでもつながってんのか!?」
 懇々と費やしてきた努力を一瞬で無にされて、目から赤く濁った汁がぶわっとでてくる。
 なんだろう。俺は一体どこで間違ったというのか。
 もはや何を言っても無駄なのだろうか。
 百年ぐらい寿命を縮められた顔で煤けた天井を仰ぐ。
 なんかもうどうでもいいぐらいにすげえ疲れた。
「おかし……」
 もぞもぞとシーツを蠢かし、物体Xが瞳で訴えてくる。
 くう、と可愛らしい音がその腹の辺りから聞こえた。
 ……さっき晩飯食ったばかりじゃねえかコイツは。
「そんな顔したってダメなもんはダメだ。冷蔵庫の中も空っぽだし、あとはもーマジで米ぐらいしか残ってねーよ。具無し茶漬けでよければ作ってやるが」
 こういうのを自業自得というのだ。
 たまにはと甘い顔してお祭りごっこに付き合ってやろうとしたのに。
 一週間遅れの幽霊など無視すれば良かった。
 今更ながらに胸の内を後悔が埋め尽くす。
「おかし……」
 布の固まりがゆらり、と立ち上がる。
 気のせいか喉の奥からはううう、と犬のうなり声にも似た音が響いてきて――
「え、いや、あの、インデックス……さん?」
 ふらふらと夢遊病者のようにインデックスが力なく歩みを進める。
 その目からは生気というものがまるで感じられず、まるでゾンビか、さもなくば戦地へ向かう戦士のような、鬼気としたものを感じて――

 がぷ。

「ぎにゃああああああああああああああああ!?」
「がううううう、おかし! おかしおかしおかし! おかしくれなきゃいたずらするんだよ!」
 すでに悪戯がどうとか言うレベルではない。
 頭頂をがぶりと噛みつかれ、血しぶきを上げながらのたうち回る。
「待て! 落ち着け! 話せば分かる話せば!」
 叫べど暴れれどすでに何も見えていないのか、半泣きになりながらしがみつく手、もとい口を離してくれはしない。
「うー! おーかーしー!」
「わかった! 明日なんか買ってきてやるから! だから離してお願い! もげる! 禿げる!」
 思わずそう叫ぶと、頭部の痛みがようやくに治まる。
 それでも警戒は解いていないようで、背中からしがみつかれる体勢には変わりはないのだが。
「……とうま、ほんと?」
「ほんとほんと! マジで! 神に誓って!」
 この科学の町で何とも白々しいものだが、必ず死ぬと書いて必死な俺には些細な事だ。
 さすがに賢明な訴えが届いたのか、相変わらず低いうなり声は聞こえるものの、追撃が来る事はなかった。
 ようやくに胸をなで下ろすが、耳を澄ませば背中の方からくうう、と危険信号音が鳴り続いている。
「いやだから頭を甘噛みするのやめてくれ、味見されてるようで気が気じゃないんだよ。こんな時間じゃ買い物にだっていけないし、勘弁してくれよ」
 そうは言うものの腹の虫が治まらない(誤用)のか、インデックスはがぷがぷと噛みついてくるのをやめようとしない。
 この年で頭頂部を気にするようになるのは心底お許し願いたい。
「うー……」
 とはいえ何を言っても飴一つ出てこないのは本人も十分に分かってはいるのだろう。
 不承不承といった感じで、ゆっくりと歯と言うか牙が離れていった。
「腹減って眠れないなら、お茶漬け作ってやるよ。とりあえず今日はもう寝ようぜ」
 未だ背中にしがみつくインデックスに向かって、そう声をかける。
 ……実は米の残りだってけして楽観できるものではないのだが、命には代えられない。
 土御門にでもタカるかな、などと考え、膝に手を当てて立ち上がろうとすると――不意にぞわ、と鳥肌の立つ感触を首筋に感じた。
「ちょ、ちょっとまてインデックス、今作るから、離れろってこら!」
 ぺろぺろ、はぷはぷと、インデックスが首に甘く噛みついてくる。
 歯を立てることなく、濡れた舌で嘗め上げ、唾をつけては唇で吸い付く。
 ぞくぞくとこみ上げてくるものに立ち上がろうとしていた力を全て奪われ、情けなくもその場にへたり込んでしまった。
「お茶漬けは、いい」
 耳元で囁かれる声に、ぞわっと総毛立つ。
 まるでインデックスではない何者かのような、妖しく濡れた声。
 視界の端に、ちろちろと蠢く舌が見える。
 毒々しいまでに赤く、焼けた鉄のように熱い。
 それが肌の上を這う度にぞわ、と痺れが走る。

「お茶漬けはいいから――また、とうまの、たべたいな」

 インデックスはそう呟くと――肩に手をかけてきて、そのまま床へと押しつけられる。
 あの軽く、細い身体からは想像もできない力で、腰の砕けた自分では抵抗もできずに押さえつけられた。
「ふふん、結局おかしくれなかったから……いたずらするんだもん」
 言葉の後、唇を濡らすように、ちろちろと真っ赤な舌が動く。
 まるで何かの呪いのように、その妖しさに魅入られて、動く事もできずに、ただ見守るだけ。
 電灯の下、きらきらと輝くぎんいろを振りまき、細い指が器用に動いて、ズボンのベルトを外していく。
 縛られているわけでも、動くなと言われてるわけでもない。
 なのに身体はまるで動かず、声を上げる事もできない。
 ただ唾をごくりとのみこんで、目の前の倒錯的な出来事を見守るのみだった。
 逃げるな、と言わんばかりに腰に両手を回された。
 そのままの姿勢で、ぞくりとするような笑みをこちらに向けると、舌でチャックを捜し当て、前歯をむき出すと、ジッパーを挟んだ。
 ジジ、とジッパーがゆっくりと下ろされる。手を使わずに、歯でくわえたまま。
 下着越しに、インデックスがすんすんと鼻を鳴らして臭いを嗅いだ。
 目を閉じ、嬉しそうに頬すら染めて。
「あは、とーまの、すっごいにおいだよ……でもまだちょっと、元気が足りないかなぁ」
 楽しそうに言うインデックスが首を上げると――のど元から素肌がのぞく。
 身にまとったシーツの下は肌色以外は何もなく、固く尖った胸の突起がちらりと見えた。
「お、お前、その下……」
 かろうじて。かろうじて、そんな声が出た。
 喉がからからに渇いて、言葉をこれ以上続けられない。
 粘ついた唾をごくんと、喉に流し込む。
「とうまのえっち。どこ見てるの……いいけどね」
 くすりと笑ったインデックスは、首元に指先を引っかけ、これ見よがしに広げて見せた。
 その奥は、本当に白く見えるほど肌色しか無くて、下着の一枚も着けていないのだと直感した。
 ほんのわずかに膨らんでいる、未成熟な肌を見せつけられて、情けなくも下半身はぴくんと反応する。
 その動きに気をよくしたのか、インデックスは聖母のような微笑みを浮かべ、慣れた手つきで下着ごとズボンを引き下ろしていった。
 灯りの下で、空気に晒された陰茎はひくんと脈打つ。
 それを本当に楽しそうに、肉食獣が食事を始めるが如く、赤く熟れた舌を近づけていく。
 遠慮も何もなく、ぬろっと舐められて、思わず腰が跳ねた。
 てろてろと余す所無く唾液で濡らされていく。
 丁寧に根本から先端まで、伴侶と交わすように口づけられて。
 赤く黒く、きらきらと光る様を見て、満足そうにインデックスが口を離した。
 つんつんと何度かつつきながら、嬉しそうに笑うインデックスはとても淫靡で――本当にこれがあのインデックスなのかと疑ってしまうほどだった。
 彼女は大きく息を吸うように口を開くと、躊躇無く――先端から飲み込んでいった。
 途端、背筋にぞわりと痺れが走る。
 ん、んと声を漏らしながら、小さな小さな桜色の唇から赤黒い肉棒が出入りする。
 体中を咀嚼されているような錯覚。
 骨の髄までしゃぶられて、魂を吸い取られている。
 かろうじて動いている心臓はオーバーヒートを起こし、体温を急激に引き上げていく。
 うあ、と情けないあえぎを喉から漏らし、持って行かれそうな刺激に必死で耐える。
 そうしてほどなく、ちゅる、と音を立てて唇から大きくそそり立ったペニスが引き抜かれた。
「あは、おっきくなったよ、とうま。あごが外れちゃうかと思った」
 そう告げる口の端から、涎が一筋流れ落ちる。
 それをぺろりと舌で嘗め取ると、再び口を開いて――はぷ、と幹にかじりつく。
 強すぎず、弱すぎず、唇ではみ、時に歯を立て、しかし決して痛みを与えず――絶妙な力加減で、愛おしげに刺激を与えられる。
 あまりの心地よさに跳ねる腰を見て、インデックスは少し困ったように眉根を歪ませた。
「とうま、すっごい可愛い顔してる……射精す時はちゃんと言うんだよ? 全部食べちゃうんだから……」
 上気した顔でそう言うインデックスは凄絶な色気をまとっていて――ひとまわり唇を嘗めると、再びずるりと先端から飲み込んでいった。
 溶けてしまいそうな熱と柔らかさ。
 小さな口をいっぱいに開いて、喉の奥まで使って、男の肉に奉仕していく。
 桜色の唇で締め付け、いっぱいに頬張った肉に熱く蕩けた舌を絡ませて。
 ぞくんと、一際大きい痺れを感じて、思わず声を上げた。
「だっ――イん、デック、すっ――でっ、出、っる――!」
 言葉として放つ事もできず、口に出したのはそんな断片。
 一瞬の後、津波にさらわれるように、自身が消え失せる。
 目の前が真っ白になると同時、腰がびくんと震えて――瞬間、びゅるる、と放出が始まる。
「――んっ!? ん、んく、んんんっ……」
 目の前で小さな喉がこくん、こくんと動く。
 射精は長く長く続き、とてつもない量を吐き出し続ける。
 それを一滴も漏らすことなく、小さな口に受け止めて、可憐な少女は一心不乱に飲み下していく。
 息をする事も忘れて、喉を通る灼熱に身を震わせ――そのまなじりを、嬉しそうにとろかせて。
 食べられている。
 自分という存在を、ねぶりながら少しずつ、吸い尽くすように、根底から食べられている。
 けれど止める術はなく、むしろ自分からもっと食べて欲しいと願い、それ故に放出は止まらない。
 快感は長く長く続き――尾を引きながら、ようやく波を落ち着かせる。
 はぁ、はぁと肩で息をしながら、必死に目の焦点を合わせた。
 ちゅう、と最後に強く吸われて、また腰が跳ねた。
「はんむ……んく、んっ……っはぁ、すっごい量……飲みきれないよ、とうま」
 インデックスが口を開くと、唇の間を糸が引いた。
 白く濁るその糸は間違いなく自分が出したもので、背徳的な満足感に背筋が震える。
 気怠さで動く事もできず、その場で息をつくばかり。
 しばし惚けていると、ぬらりとした感触で叩き起こされた。
「とうま、まだかちかちだね……もちょっと、食べてもいい……?」
 待ってくれ、という間も待たず、インデックスは再び怒張を飲み込んでいった。
 一度達して敏感になっている神経を弄ばれて、情けなく声が漏れる。
 そんな様子を、さも楽しそうに目を細めながら眺め、わざと音を立てつつ、緩急をつけて追い込まれる。
 まとわりつく柔らかい舌は的確に弱い所を嘗め上げ、時折ず、ちゅと吸われる度に腰が跳ねる。
 2度目はあっけなく訪れた。
「う、あ、あ――っ、で、出ちまっ――」
 じゅる、と一際強く飲みこれる衝撃に、堤防は簡単に崩壊する。
 どぷどぷと、2発目だというのに変わらぬ量と勢いで、幼い口へ欲望を吐き出す。
 この破滅的な快感をもっと深く味わいたいと、全て注ぎ込みたいと、両手が勝手に動いて、小さな頭を押さえつける。
 インデックスは驚き、くぐもった声を上げるが、離れる事もできず、結果喉を鳴らす事しか叶わない。
 苦しいのか、時折咳き込み、その拍子に白濁を唇の端から零し、ぱたぱたと身体を覆うシーツへと垂らす。
 粘っこく糸を引き、後から後から溢れてくる液体は止まる事を知らず、その苦しい体勢のまま、数年にも思える数分が過ぎた。
「う、あ……っく、すげ……インデックス、吸って……最後、ま、でっ……」
 全て吐き出した後も、痺れるような腰に残る快感は引かず、ふわふわと翻弄される。
 ようやくに肩から力が抜け、押さえつけていた両手を離すと、息も絶え絶えなインデックスは大きく息を吸った。
 かたかたと小刻みに震える身体は、余韻を楽しんでいるようで――おそらく達したのだろう、夢見心地に頬を緩ませて。
 とろんとした、あまり意志を感じない表情のまま、胸元へと垂れた雫に目を落とすと、わずかに微笑んで、指先ですくい取る。
 そのまま当たり前のように舌の上へ運び、口内へ納めると、満足そうに吐息を吐き出した。
「あ、はっ……とーまの、すっごく濃くて、臭くて、粘ついて……」
 ぞくぞくと身体を走る快感に遊ばれて、うなされるかの如く、言葉が溢れる。
 苦しかったはずなのに、辛かったはずなのに。
 欲望のはけ口のようにも扱われて、無理矢理にひどい事をされて。
 なのに、なのに、インデックスは。
「おい、ひぃ……美味しかった、の……」
 凄絶に微笑んで、素直に喜びを口にした。
 それはあまりに妖艶で、淫靡で、婉然としていて――純粋で、可憐だった。
 ぎゅう、と心臓をわしづかみにされた感触を感じる。
 それは錯覚ではあったのだろうが。
 不覚にも若い身体は反応してしまい、欲望の固まりは再び硬度を取り戻していった。
 それを目にしたインデックスは、驚きに一瞬目を見開いた後――心底嬉しそうに笑う。
 頬を赤らめながら身に纏うシーツを翻し、後ろを向くと、カーペットに手を突いた。
 左手を回し、太股へかかった布を見せつけるように、ゆっくりとたくし上げていく。
 大理石も霞んでしまうような、真っ白で、きめ細やかで、張りのある――その肌にはどんな一級の芸術品もかなわないだろう。
 まだ肉付きは薄く、けれどそれ故に少女特有の儚げで繊細な美しさを誇り。
 電灯のか細い灯りの下に映える白い肉は、細い腰から緩やかなカーブを描き、幻想的な秘部を晒す。
 何も触れずともそこはすでに潤みきっており、とろとろと音がしそうなほど蜜を吐き出して、床へと滴っていた。
 シーツの下はまさしく着衣の一枚もなく、さらけ出した下半身はあられもない生まれたままの姿であった。
「ね、とうま。こんどは……こっちから食べさせて?」
 ごくりと、我知らず喉を飲み込む。
 花の香りに呼ばれた蜂であろうか。
 焚き火に飛び込む蛾であろうか。
 ともかくも操られるように、ふらふらと身体は歩を進め、その細い腰に手を回す。
 その衝撃に、はぁ、とインデックスは熱い息を吐く。
 うっとりと目を細め、今か今かと待ち望んでいるその表情は、まるで魔女のようにも見える。
 じれったさにゆらゆらと揺れる腰を押さえ、右手を剛直に添えると、狙いを定め、ゆっくりと――セピア色にくすむ可憐な排泄口へと沈めていく。
 ずぶずぶと音まで聞こえてきそうな制圧感。
 体内へ異物を迎える少女はその存在に貪られながら、満面の笑みを浮かべ、貪欲に飲み込んでいった。
「は、ふ――ひんっ、あ、あああ、おし、り、おしり……いい、よぉ……とうま、とうま、早くぅ、早く動いてぇ……」
 濡らしもせず、ほぐしもせず、勢いのみで貫いたというのに、中はもう腸液でどろどろに潤みきっており、さして抵抗もなく、ずるずると奥深くまで入り込む。
 力任せに最後まで押し込むと――少女は苦しげにぜいぜいと肩で息をし、けれどだらしなく緩んだ顔で、喜びに満ちあふれて。
 酸素を求めて突き出された舌から、きらきらと唾液が滴り落ちる。
 言葉にもならない、意味をなさない声がその細い喉から始終漏れる。
 奥まで押し込んだ異物は当然のように引き抜かれていって、その破滅的な悦楽は容赦なく少女を打ちのめす。

 言葉もなくし、ただ本能に突き動かされるままに。
 部屋にはただ獣のうめき声と、魔女の嬌声が響く。
 ぱんぱんと、いつまでも繰り返される肉を打つ音。
 やがて注ぎ込まれる灼熱に冥い喜びを叫んで。


 日付が変わろうとも、二匹は長く長く、貪りあった。

 

 

 

 すうすうと、寝息が響く。
 いつもは自分一人だけの、大きめのベッド。
 今日は二人、身を寄せ合って。
 疲れ果てたのか、とうまは先に寝ついてしまった。
 置いて行かれたような気がして、少し寂しいけれど、広い胸に頬をすり寄せ、その暖かさで許そうと思う。
 とくんとくんと、耳に響く鼓動。
 わずかに身を起こし、寝顔をのぞき込む。
 まるで羊飼いの少年のように、純朴で、可愛らしく、愛しい寝顔。
 目を覚まさない事を祈って、そっと唇を寄せていって――わずかの距離で、動きが止まる。
 好きなのに。好きだけど。好きだから。
 胸の締め付けられる思いで、またそっと顔を離す。
 唇はひとり、冷たいままで。
「……私は……とうまが、よかった、んだけど、なぁ……」
 身体を起こして、背を丸め、膝を抱く。
 隣に寝息を聞きながら。

 ――はじめてとうまと身体を重ねた時。
 神の妻として捧げられた私は、せめてこちらならと、不浄の穴で彼を迎え入れた。
 覚悟をしていたはずのその行為は、あまりにスムーズに、さして抵抗もなく、私の身体は彼を貪った。
 初めてのはずの、痛みを伴うはずの肛交は、あまりにもあっさりと太く凶悪な男性をくわえ込み、遠慮無く快楽をもたらした。
 喜びに打ち震え、何度も何度も気をやって、注がれるたびに嬉しいとさえ感じた。

 ――まるで、慣れた事のように。

 電気を消した真っ暗な闇の中、瞳を薄め、ぼんやりと壁を見る。
 白いはずの壁は薄汚れて見え、まるで自分を見ているようだった。
 ふう、と聞こえる事の無いように、静かに息を吐く。
 ……つまりは、そういうことなのだろう。
 私には、一年と少し、それより以前の記憶がない。
 いくらでも推察のできる事だ。
 たとえばの話。
 明日には確実に死ぬと決まった人間に対して、人はどこまで残酷になれるものか?
 魔女狩りの時代、人はどれだけ凄惨な事をしてきたのか。
 拷問や虐殺に限らず、欲望のままに、人は人を陵辱して、汚し、犯し、まるで使い捨ての道具のように扱った。
 私は、一年ごとに死ぬ。
 それは肉体を滅ぼされる事ではないけれど、昨日まで覚えていた事を、残らず忘れてしまうのは、死んでしまう事とほぼ同義ではないだろうか。
 死ぬ為の儀式は日を選び、手順をきちんと踏んで、毎年滞りなく行われただろう。
 私は、その日には確実に死んでいるのだ。
 教会にとって重要なのは10万3千冊の知識であって、私の肉体ではない。
 明日には綺麗さっぱりと全てを忘れている人間。
 それはなんと都合が良く、興味をそそるものだろうか。
 子羊を導くシスターとしては、人々の善性というものを信じたいけれど。
 日本での一年、心休まる時など無かった。
 禁書目録としての利用価値。
 力ない女の身体。
 常に危険と隣り合わせで、一日中狙われ続けた。
 それこそ何人も何十人も、何百人も。
 誰も彼も欲望をむき出しにし、組織、個人に限らず、人の汚い側面を嫌と言うほど味あわされてきた。
 別に敵に限った事ではない。
 そばにいたはずの人間が、牙をむいて襲いかかってくる――そんな事、当たり前なのだ。
 だって私は……決まった日には、死んでしまうのだから。
 何をした所で、すべてリセットされて――なかったことになってしまうのだから。

 ――コロサナケレバ、ナニヲシテモカマワナイノダ。

 顔にかかる前髪を払い、ふう、と息をつく。
 そのまま横に視線を向けて。
 彼は、くちづけをしてくれた事はない。
 ファーストキスは大事な時に為にとって置けと、少し――すっごい、やせ我慢しながら言われた。
 神に捧げた身ではあるけれど、おそらく私はすでに、純潔ではないだろう。
 私を大事に思って、そんな事を言ってくれた彼に、それだけは本当にすまなく思う。
 薄汚れた魔導書を詰め込んだ、隅々まで汚れきった身体。
 なんとも皮肉なものだ。
 軽く自嘲して、一人寂しく微笑う。
 いつのまにかじわ、と視界がにじむ。
 振り払うように頭を振って、ごしごしと手でぬぐう。
 そっと愛しい人を起こさぬように、隣へ身体を横たえて、強く目を閉じる。

 古代ケルトでは、10月31日、ハロウィンは一年の終わりの日。
 死者が蘇り、悪魔や魔女が闊歩する悪夢の日。


 魔女狩りの日だ。

 

 


 はぐはぐがつがつもぐもぐちゅーずずず。
「おい、慌てて食うなって。まだあんだからさ」
 とうまののんびりした声にも、もはや応答するヒマさえ惜しい。
 目の前に並べられた甘味に視線を走らせ、次の獲物を物色する。
 常に新鮮に味わう為に、お茶で舌をリフレッシュさせる事も忘れない。
「なんでなんでとうま、おいしいよ、あれもこれも、すっごいおいしいんだよ!」
 そう告げるも、苦い顔で、けれどなぜだか少し嬉しそうに、とうまはゆっくりとたいやきをかじっていた。
「なけなしのへそくりはたいたんだ。これでしばらくは悪戯しないでくれよな、おばけサン?」
 こくこくと頷いて、素早く手を動かす。
 ああ、味覚の喜びというものは、なんと素晴らしいのだろう。
 このようなものを与えられた事に、主に深く深く感謝いたします。
 次はベリータルトもあると嬉しいです。
「しかし一週間遅れじゃ風情もへったくれもねえな。せめて来年は予定通りに来てくれよな」
 ――来年。
 その言葉に、わずかに手が止まる。
 来年。来年。
 まるで初めて砂糖の味を知った時のように、胸の奥深く、喜びが生まれる。
 ……私はこれから、来年というものを迎える事ができるのだ。
 とうまがそういってくれて。
 一緒に、来年を迎えようって、いって、くれ、て――
「え、お、おい、インデックス?」
「――ほへ?」
 ぱた、と手に持った今川焼きに水飛沫がかかった。
 せっかくの美味になんてことを、と水の出所を探していると――それは、私の目からだった。
 ……ああ、そっか。
 私、泣いてるのか、と。
 たったそれだけの事を理解するのに、長い時間をかける。
 わたわたと慌てふためくとうまに、なんでもないんだよ、と笑顔を向けて。
 ごまかすように、熱い湯飲みを持って、緑茶を喉へ流し込んだ。
 ふう、と息をついた後、心持ち背筋を伸ばす。もう涙は出てこない。
「ねえ、とうま」
 問いかける声に、とうまは顔を上げて、私を見つめてくれた。
 汚れきった私を、彼を騙し続ける汚い私を、澄み切った綺麗な瞳で。
 ずきん、とうずく胸を無視して、唇を開く。
「古来ケルトでは、10月31日は一年の終わりの日だったんだよ。それは不吉の象徴で、その日には死者が蘇り、悪霊や悪魔が現れると信じられていたんだ」
 面食らったように、とうまはいきなり説明を始める私に、眉根を歪ませた。
 そんな様子も無視して、私は得意げに説明を続ける。
「人々は仮面をかぶったりして正体を隠す事によって身を守り、悪霊を鎮めるために家々を回って食料を集め、捧げる事で悪い事を振り払ってきたんだよ」
 これがハロウィンの始まり。
 いつしか儀礼は形式的なものに変わり、風俗へと変わっていき、現在へと繋がるに至る。
「……これは知ってるんだよ。歴史だから。知識として」
 胸が重い。
 明るく出したはずの声は低いトーンになってしまって、場の空気が少し変わった。
 とうまはなぜか、困ったような、怒ったような顔をして、私の話を聞いてくれている。
「とうま、知ってる? ハロウィンの発祥って、イギリスやアイルランドなんだよ。私の生まれた国」
 静かな部屋に、重く響くように、私の声。
 気のせいかわずかに震えが混じって、喋るのが少し――辛くなってくる。
「おかしいよね、生まれ故郷のお祭りなのに。私、テレビで見るまで、おばけの格好して、おかしをねだるってパーティを知らなかったんだよ」
 それは現代の風俗だから。
 歴史を重ね、起源を振り返る事もなく、皆で楽しむ祭として、発展を重ねてきたものだから。
 歴史書にも、史実にも載っていない、生の情報だから。
 だから、私は知らない。
「イギリスの有名な行事を知らない――イギリス人じゃない外国人、なんだよ。イギリスは私の故郷じゃ……ないんだよ」
 ぽろぽろと、押さえも効かず、冷たい粒が零れ落ちる。
 甘い甘いお菓子に降り注いで、何もかもしょっぱくしてしまう。
「わたしには……帰る所も、ないんだよ」
 はらはらと、涙は止まらない。
 広い世界に放り出された、家もない、故郷もない、ひとりぼっちの異邦人。
 汚れきった身体で、木の皮をかじり、泥水をすすって這いつくばる、汚いみなしご。
 黒い思考は渦を巻き、胸の内をどこまでも埋め尽くす。
 押しつぶされそうな悲しみに、消えてしまいたくなる。
 と、不意に電灯の光が遮られ、視界が暗くなったのを不思議に思うと――
「ふぎゃっ!?」
 ばちん、といい音がして、額に激痛が走った。
「ばーか、いつだってどこだって誰の家でもお前は勝手に居着いてるじゃねーか。小萌先生のとこだって舞夏のとこだって」
 額を押さえる私に、何を言ってるんだという態度で、とうまは話し続ける。
「言ってみりゃこの地球がお前の故郷だし――ここがお前の家だろ。腐った事言ってんじゃねーよ」
 そう告げるとうまは、迷惑そうに――ちょっと恥ずかしげに、目を細めた。
 今になってようやく、言われた言葉が頭に入ってくる。
 ここがお前の家だと。
 帰る場所はここなんだと。
「わかったらさっさと食っちまえ。今月の残りは粗食月間だからな、覚悟しておけよ」
 がぶりと、たいやきを頭から大きめに、わざとらしくかじりながら、ごまかすように、とうまは吐き捨てた。
 ――ああ、そうなんだなぁ。
 気がつけば、胸の内の黒い気持ちは綺麗さっぱり消えていた。
 なんとはなく、何かが分かった気がして、嬉しさに頬が緩む。
 わたしは、これから、いきていくんだ、と。
 なぜかこちらから顔をそらすとうまを見ながら、そんな事を考えた。
 ふふ、と笑いながら、再び今川焼きを成敗する事にした。
 砂糖の甘味はひょっとしたら主よりも尊いのではないだろうか。
 そんな罰当たりな事を考えながら、はむ、とかぶりつく。
「あ、とーま、お行儀悪い。ほっぺたにあんこついてるよ」
「んあ?」


 テーブルを挟んで二人、仲良くお菓子を食べながら。
 やがて訪れる冬にも負けないように、二人、暖めあって。
 騙す事が愛だとは思わないけれど。
 それでもここにいて、私は彼を愛している。
 だからちょっとずるいけど、そんな嘘をつき、テーブルから身を乗り出して。

 

 

 ぺろりと、とうまの頬をなめてみた。

 

 

 

        fin.

 







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