『えー……で、あるからして、諸君らには一層の……』
 講堂に大音量の声が響く。
 毎週の月曜、この広い空間に全校生徒が集められ、集会を行う。
 大抵は校長のそれはそれはありがたいお言葉であるため、乗り気で無い生徒の方が大半である。
 そんな中、乗り気でいなければいけないはずの内の一人。
 普段は率先してクラスの人間をまとめ、率いていく立場の者。
 簡単に言えばクラス委員長の吹寄制理、その人である。



学園都市七不思議 その二「視線の先」

       かいたひと:ことり




「せーりん、せーりん」
 けして大きくはない、どちらかと言えばぼそぼそ、と表されるほどの音量。
 それだけであるはずの声に、吹寄の肩がびくっと跳ねる。
 慌てて横目をやる彼女は、人差し指を立てて口に当て、静かにするように、とジェスチャーを送った。
「ちょっとふーこ、朝会中は私語は禁止のはずでしょ。あとせーりんって呼ぶな」
 返す吹寄の声もひそひそと、ただこちらは注意をするという名目があるためやや強気である。
「いやごめん。だけどせーりん、さっきから全然話なんか聞いてないじゃん」
 校長の立っている教壇はほぼ正面の位置にある。
 しかし吹寄はなぜか、ずっとかなり左の方を向いていたことが、彼女は気になっていた。
「あっちって男子の集団だけど……ひょっとしてせーりんもとうとうお年頃ですかうふふのふ」
「ば、ばかなこといってるんじゃないの! そんなわけないでしょ」
 朝会の集合の仕方は少し変わっていて、全校の女子は右半分、男子は左半分に別れていた。
 ついでに並び方は全校を合わせた名前順になっているため、クラスも何もかもばらばらになっている。
 『ハ行』でかなり真ん中よりに位置する吹寄が左を向けば、そこには当然男子しかいないわけで。
「なになに、誰狙ってんの? 痛くしないからお姉さんに教えてごらん?」
「同学年でお姉さんもないでしょが。いい加減黙りなさい」
 戒めの言葉も右から左へ通し、吹寄が見ていた、と思われる先を追う。
 するとその先には、ひときわ目立つ男子の姿。
「あー……ひょっとして片平クン? 片平君なのせーりん?」
「黙れっつってんの。じゃないとあとでふわふわぽいぽいの刑よ」
 ちなみに50個のテニスボールを手を使わず、念動力のみで10m先のカゴへ残らず運ぶ刑である。
 脅しまでかけてきた吹寄にも譲らず、友人の推理は続く。
「片平君、背ぇ高いもんねぇ。ああいうのが好みだなんて知らなかったわ。どういう心境の変化?」
「だ、だからそんなんじゃないっていってるでしょ……ただ、片平君背高くて、目立つから……」
 178cmある彼は、全校生徒が集まるこの群衆に於いても頭一つ飛び抜け、確かに目立っていた。
 彼に匹敵するのは全校でもあとは青髪ピアスぐらいか。
 しかし青髪ピアスが始終へらへらとしているのと違って、片平は人当たりもよく、成績も優秀で、隠れファンクラブがあるとも噂されている。
「いやいや意外にミーハーだったんだねぇ委員長。どうよ、片平君のプロマイド五枚一組千五百円」
「クラスメイト相手に怪しい商売すなっ!」
 にべもない断り方に、少し傷ついた様子で写真をしぶしぶとしまう。
 写真と一緒になにかの会員証が出てきた気がするがきっと気のせいだ。
 まったくもって友達は選んだ方がいいんじゃないかと思う吹寄だった。
「でもせーりんならあたし応援しちゃおうかなぁ。今度二人きりになれるようセッティングしてあげよか?」
「だから違うっていってんでしょ。余計なお世話よ」
 それだけ言って、吹寄は前を向く。今度はきちんと校長を見て。
 ふう、と一息、悩みをはき出すように。

「『かた』の次が、『かみ』なだけよ。ふん……」

 そう呟く声は、校長のお言葉にかき消されて。
 誰に届くこともなく、静かな騒音に紛れてしまう。
 朝会が終われば、すぐに教室へ戻っていつもの日常が始まるのだ。



「くぉら三バカ! とっとと席に座んなさいって言ってんの!」




 そこにはもういつもの、口うるさいクラスの委員長がいた。





                fin.

 







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