今日は休日。
 久々になのは、フェイト、はやての休日が重なったので、仲良し五人組は街へと遊びに来ていた。
 普段は大人顔負けの実力で管理局の仕事をこなすなのは達だったが、こちらの世界では小学五年生であり、まだまだ子供でしかない。
 だからたまにはこんな風に友人との穏やかな休日も満喫して欲しい、とアリサやすずかは常々思っている。もちろんそこには、この友人達と思いっきり何も考えずに遊びたいという自身の願望も含まれてはいるのだが。
「……で、アリサちゃんとすずかちゃんのお勧めの喫茶店って、ここか?」
「うん、そうだよ。最近アリサちゃんと来てみたんだけど、ドリンクの種類が豊富で、どれもすっごくおいしいの」
 適度にウインドウショッピングを楽しんだ後アリサとすずかに連れられてやって来たのは、どこか洒落た雰囲気のする喫茶店だった。
 時刻としては昼過ぎ。昼食を取り終え談笑しながら過ごすには丁度良い時間だ。そのせいか、店内はたくさんの客で賑わっていた。
 並ばなければならないかと思われたが、アリサが店員に声をかけると窓際の一席に案内される。流石、どうやら予約をしていたらしい。
 そのおかげでなのは達は並ぶこともなく無事に席につくことが出来た。各自メニューを見てオーダーを済ませると、談笑を始める皆の中でなのはは一人、メニューを見て唸っていた。
「どうしたの、なのは? 何かあった?」
「あ、ううん。そういうわけじゃないんだけどね。……ちょっと、研究を」
 溜まらず声をかけるフェイトだったが、なのはのその言葉に納得した。
 なのはの実家は、ここと同じ喫茶店を家業としている。なのはの家もここと同様に、いやむしろここよりも繁盛してはいるのだが、やはり同業者としては気になるのだろう。
 だが、じっくりとメニューを見て研究をしているなのはの後頭部に、突然アリサのチョップが入った。
「いったーっい!?」
「もう、せっかくの休みの日までそんなこと考えなくていいの!」
「うぅ、フェイトちゃーん、アリサちゃんがいじめるよぅ」
「別にいじめてないわよっ!」
 などと、なんだかんだと楽しく騒いでいるうちに、店員が注文した品を持ってやって来た。やはり楽しければ時間とは早く過ぎるものである。
 それぞれ頼んだ品を目の前に置いてもらって、間違いがないか確かめた後に店員は去って行った。
(……あれ?)
 と、そこでフェイトは疑問に思った。何だか注文したドリンクとは微妙に違うような――
 けれど、見間違いだろうと思ってストローに口をつける。
 他の皆は何も思ってなどいないようだったし、何より喉が渇いていたから、早く飲み物を飲みたかったのだ。
 そうしてしばらく談笑していると、先程の店員が慌ててなのは達のもとへとやって来た。
「す、すいませんっ! 先程こちらにお運びしたドリンクなのですが、間違えてお酒を運んでしまったようでして……!」
「え、でもあたしは普通のよ」
「私もだよ」
「私もや」
「私も……」
 口々に店員の言葉を否定するなのは達だったが、一人だけ応えない人物がいる。
「まさか、フェイトちゃんっ!?」
 なのはが慌てて何も言わない親友を見ると、フェイトはどこかぼーっとした様子で宙を見ていた。その頬は赤い。これは完全に酔っている。
 その後店員に何度も何度も謝られたが、今はフェイトをどうにかすることが先決だったので話し合った結果、なのはがフェイトを家まで送っていくことにした。
「ごめんねアリサちゃん……この埋め合わせはちゃんとするから!」
「もう、いいからフェイトをちゃんと送ってあげなさいよ!」
「帰ったら水を飲ませてあげてね」
「無理させんようにしたげてやー」
 心優しい親友達に見送られて、なのはは足取りが怪しいフェイトを連れて、家に帰って行った。


  ◇


 そしてなんとか無事にハラオウン家に到着。
 なのはは未だふにゃふにゃと足元の心もとないフェイトを支えながら、ハラオウン家のドアを開けた。
「お、お邪魔しまーす……」
 だが、いつもならすぐに聞こえるはずのリンディの声が聞こえてこない。
 不審に思ってリビングの方へと足を進めるが、そこには誰もいなかった。
(そっか、そういえば今日は誰もいないって、フェイトちゃん言ってたっけ)
 やはり提督ともなれば忙しいはずである。それは執務官であるクロノや、その補佐官であるエイミィも同様だ。
 そうするとこの家で役職についていないのはフェイトの使い魔であるアルフだけであったが、そのアルフも本日は局の方に用事があって帰ってこないと言っていた。
 ふと、なのはは気がついた。ということは少なくとも今日一日はフェイトと二人きりなのだ、と。
 途端になのはの頭の中をよぎるのは、とてもではないが口には出せないようなあんなことやこんなこと。
(って、な、何考えてるんだろ。今はフェイトちゃんを介抱する方が先っ!!)
 だけれども、すぐにそんな考えを振り払うかのようになのはは頭を振った。いくら恋人であるからと言って、酔っ払ってしまっている人を相手にそんなことをしていいはずがない。
「フェ、フェイトちゃん、台所まで、歩け…っ!?」
 ともかくまずは水を飲ませようと、傍らに居るはずのフェイトを振り返る――が、そこには誰もいなかった。
 少し目を離した隙に、どこかへ自力で歩いて行ってしまったらしい。けれどいくらなんでも家からは出てはいないだろう。
 とりあえず当人にとっても一番縁の深い、フェイトの部屋へ行ってみる。と、ドアが僅かに開いていた。
 普段フェイトは部屋を出るときにはきちんとドアを閉めるから、きっとこの中だろう。思っていたよりも早く見つかってほっとしたなのはは、ドアを開けながら中にいるであろうフェイトに声をかけようとしたのだが。

 その扉を開けた瞬間、目に入ってきたのは上を脱いで、上半身が下着だけになっていたフェイトだった。

「え、ええええぇえっ!? ふぇ、ふぇいとちゃんっ!?」
「ん……なの、は?」
 思わずなのはが叫ぶと、フェイトが緩慢な動作でこちらを見やる。
 まだ酔いが残っているのだろう。その目はとろんとしており、頬も赤く染まっている。そんなフェイトになのはの胸がきゅんと鳴った。
(うあああぁあときめいてる場合じゃないよわたしっ!!)
「ふぇ、ふぇいとちゃんっ! 風邪引いちゃうから早く服着てっ!」
 慌てて床に散らばっている服を拾い集めてフェイトに押し付ける。だがフェイトはただいやいやと首を振るばかりで、一向にそれを着ようとはしなかった。
 早く着て貰わないと、とても危険だというのに。主になのはの理性が。
「やだ。だって、あついもん」
「あ、あついって」
 普段とは違ってどこか言葉遣いまで幼くなっている気がする。
 これも酔ってしまったせいなのか。ああもうあの喫茶店の店員には今度クレームをつけなければならない。いやむしろよくやったと褒めるべきなのかこれは。
 などと変な方向に思考を展開させていくなのはを尻目に、フェイトは更に服を――今度は白いスカートを脱ごうとする。
「うにゃあぁあフェイトちゃんストップ! ストップ!!」
「んー、だって、あつい……」
 その理由はさっきも聞きました。はい。
 どんなに言っても全く言うことを聞く気配を見せないフェイトに、なのははなす術がない。いや、相手は酔っ払いなのだから腕ずくで止めようと思えば止められるのだろうが、今のなのはは少しでもフェイトの柔肌に触れようものなら理性がリミットブレイクを起こしかねない。
(ともかく落ち着け落ち着け、わたし。他のことを考えて…!)
 それにしても、フェイトは酔うとこんなにも羞恥心がなくなってしまうのか。
 普段するときはなのはが脱がせようとすると、もう何回も繰り返しているというのに緊張して、身を強張らせるというのに。
 そう、恥ずかしがるフェイトを組み敷いて、その服の裾から手を――
(ってああああぁああぁ! 今余計なこと思い出したああぁー!!)
 思いっきり逆効果な回想によって、なのはの熱は更にヒートアップ。だが、そんななのはに近づく影。
 がくりとベッドに手をついてうな垂れるなのはに、フェイトがぎゅ、と抱きついてきたのだ。
「ふぇ、ふぇいとちゃんっ!?」
「……なのはぁ」
 いつもならばフェイトの積極的な行動に喜んで抱きしめ返すところなのだろうが、今のなのはにとっては状況が状況である。フェイトが酔ってしまっているが故に先程からずっとイロイロと我慢していたものだから、あまりにも辛過ぎた。
 いっそのこと襲ってしまえば、と自分の中の白い悪魔が囁いてくる。だが屈するわけにはいかない。これもフェイトへの愛が為――!
「ね、なのは……なんか、あついの」
「うぇっ?」
 そこにかけられたのは、フェイトの珍しい、甘えた声。
「さっきから、からだ、あつくて……へんなの。なんだか、じんじんするの」
「う、あああぁあ」
 言葉と共に、フェイトがなのはに身体を擦り付けてくる。まるで行き場のない熱をなのはに分け与えんとするかのようなその行動に、なのはの頭は更に熱を持った。
 フェイトの身体の熱や自身のそれに、なのはは覚えがあった。
 熱くてたまらないけれど、全く不快ではない。それどころか、もっともっと相手のそれが欲しくてたまらない。
 それはいつも、情事の際に感じる熱。
(ぅ、も、もう……っ!)
 我慢の限界だ、と思ったそのとき。
「……なのは、おねがい……。なんとか、して……っ」
 なのはの壊れ気味だった理性は、プラズマザンバーブレイカーで完膚なきまでに破壊された!
「フェイトちゃんっ!」
「ぁ……」
 結局酔ってしまっている相手を襲う結果になってしまったけれど、もういいや後でちゃんと謝ろうと思いつつなのははフェイトを押し倒した。
 ぎし、と二人分の体重を受けてベッドが軋む。
 そのまま唇を重ねて、なのははフェイトの柔らかい唇を貪った。するりと舌を差し込めば、フェイトも舌を伸ばして応えてくれる。
 舌を絡めあって愛撫しながら、なのはは五指をフェイトの身体に這わせていく。
「ん、ん……」
 フェイトの胸の先にある尖ったものを撫でて刺激すると、くぐもった声が漏れた。その度にフェイトの身体がびくりと跳ねる。
 そんなフェイトの反応が可愛くて、愛しくて、更に強くそれを指で摘み、転がした。
「ん……はぁ……、かわいいよ、フェイトちゃん」
「ふぁ、あ……な、なの、はぁ……」
 唇を離して囁けば、フェイトの嬌声が辺りに響いた。キスを交わしながらフェイトの声を直接に感じるのも好きだったが、やっぱりこうやって快楽に酔いしれる表情を見ながら声を聞くのが一番いい。
 時折フェイトの身体にキスを落としながら、しばし引き締まった身体や柔らかい胸の感触と反応を楽しんだ。
 けれど、一箇所だけなのはが触れようとはしない場所があった。そのせいかフェイトは内股を擦り合わせて、何かを耐えている。
「な、なの、は……っ」
 溜まらず声を上げてフェイトがなのはを呼んだ。その切羽詰った声になのはは意地悪に笑って、問いかける。
「どうしたの、フェイトちゃん?」
 勿論なのははフェイトが何を求めているのかなんてことは分かりきっている。分かっている上で質問しているのだ。
 フェイトの弱いところも知り尽くしているのだから、的確に其処を愛撫することも出来る。それでもなのはがこうして意地悪をするのは、もっと可愛いフェイトを見たいが為だ。
 普段はこうすると、フェイトは恥ずかしがってなのはが我慢出来なくなるまで耐え切るか、フェイトの方が先に限界が来て息も絶え絶えにおねだりするかのどちらかだった。どっちにしたって可愛いフェイトが見られるから、なのはとしてはどちらのパターンでも好きなのだが。
 けれど、今回はそのどちらにも当てはまらなかった。
 フェイトはなのはの手を握って、少し躊躇しながらも自身のスカートの中へと導いた。触れさせられた其処は、既にぐっしょりと濡れそぼっている。
 今までにない事態に、なのはの思考はフリーズした。フェイトは恥ずかしがり屋だから、いつもは絶対にこんなことはしないのに。
 だが、そんななのはに気がついているのかいないのか、更にフェイトは一言。
「……お、おねがい、なのは……っ。私のここ、もっと、さわって……っ」
――ああもうこの娘はどこまでわたしをめろめろにさせれば気が済むんですか。
 足腰に力が入らなくなるくらいにぞくぞくする。
 なのはは背筋を快感が這い上がってくる感覚に身を振るわせた。
「フェイトちゃん……っ!」
「あ、んぁ、は……、あぁ……あっ!」
 耐え切れずに指をショーツの間から差し入れて、愛撫もそこそこに挿入した。それでもぬめる蜜の助けを借りて、フェイトの其処は指の進入を容易に受け入れる。
 いつもはフェイトの反応を見ながら最も感じるであろう場所を愛撫するなのはだが、今回はそんな余裕もなかった。
 ただひたすらに、求めるままにフェイトの中を蹂躙する。
 差し入れた指もいつの間にか二本、三本と増えていった。なのはの指が蠢く度にフェイトの秘裂からはとろりと蜜が溢れ、シーツを濡らす。
「フェイトちゃん、どう……っ? きもち、いい?」
「あ、はぁ……ぅん、きもち、いいよぉ……っ、なのは、もっと、もっとぉ……っ!」
 やはりいつもと違い、フェイトはなのはの愛撫を言葉でも求めてきた。きっとこれは酔っているせいなのだろう。
 でもきっと、自分も酔っているのかもしれない、となのはは思う。この目の前の少女に、酔わされているのだ。
「んぁ、な、なのは……っ、わ、わたし、もうっ!」
 フェイトの身体がびくびくと痙攣し始め、切羽詰った声で呼びかけてきた。
 そろそろ限界が近いのだと悟ったなのはは、愛撫する指を更に早く動かす。
「いいよ、ふぇいとちゃん……、イって、いいよ……っ!」
 言葉と共に、空いていた指でフェイトの一番敏感なところをぐり、と軽く摘み上げた。
「やっ、い、イっちゃ……あ、ああぁあぁっ!」
 一際身体が大きく跳ねて、フェイトは絶頂に達した。大量の蜜がフェイトの其処からとろり、と溢れ出してくる。
 フェイトは全身をびくびくと震わせながら、なのはに甘えるように抱きついてきた。宥めるようになのはも抱きしめ返して、背中を撫でる。
 どれだけの間そうしていただろうか。なのははフェイトに声をかけた。
「ん……フェイトちゃん、大丈夫?」
「ぅん……だ、だいじょうぶ……っ」
 そうフェイトは言うが、未だ荒い呼吸のままである。
 ちょっとやりすぎたかなと思いながらフェイトの柔らかい髪に頬擦りしていると、急にぴり、とした痛みが首筋に走った。
「ひゃ、ぁ……っ!? ふぇ、ふぇいとちゃんっ!?」
 見れば、そこには首筋に顔を埋めてキスをしているフェイトの姿。
 なのはの首から顔を上げると、フェイトはどこか艶やかな笑顔を見せた。
「ね、なのは……。もっと、なのはをちょうだい?」
 ええもちろんそれはもういくらでも。
 フェイトの言葉に再び理性を破壊されたなのはは、再度自身の獣を解き放った。

 まだまだ、二人の夜はこれから――


  ◇


「……ん……?」
 ふと、フェイトは眩しさを感じ取って目を覚ました。
 慌てて周囲を見渡せばそこは見慣れた自分の部屋。けれどいつの間に帰ってきたのか、記憶がない。
 確か、皆で遊びに行って、喫茶店に入って、それで。
(あ、あれ……?)
 そこまでは思い出せたのだが、それ以降の、飲み物に違和感を感じたその直後からのことが思い出せなかった。
 そして更にフェイトは気がつく。
「わ、私なんで裸……っ!?」
 身に着けていたはずの服が、取り去られていたのだ。混乱して思わず声をあげてしまう――と。
「ん……」
 すぐ隣から、声が聞こえた。
 恐る恐る声のした方向を見やると、そこにはフェイトと同じく衣類を一切身に着けていないなのはがいた。なんとも気持ちよさそうな表情で眠りについている。
 まさか、まさかこの状況は。
「ふぁ……あれ、フェイトちゃん、起きたの?」
「う、うん……」
 そうこうしているうちに、なのはが目を覚ました。こちらは全く混乱した様子を見せない。
 ならば、なのははどうしてこんな状況に陥っているのか、知っているはず。
「ね、ねぇなのは……私、一体どうして」
「あれ、覚えてないの?」
 尋ねると、心外だという顔で返されてしまった。けれどそれもすぐに意地悪な笑顔になって。
「フェイトちゃん、すごく可愛かったよ」
 にっこりとそう言われてしまった。
「え、えええぇええっ!?」
 この状況。この台詞。いくら何も具体的なことを言われずとも、流石に分かる。
 一気に顔を真っ赤にさせてパニックを起こすフェイトに、なのはは更に追い討ちをかけた。
「あんなに求めてきてくれるなんて、フェイトちゃんったら大胆だったなぁ……」
「も、もとめっ!?」
 なのはの言葉は真実ではあったが、フェイトにとっては更なる混乱を招くだけだった。
 何せ、フェイトは何も覚えてなど――
「……あ」
 だが、ぼんやりとではあるが思い出せてきた。
 確か凄く身体が熱くなって、自分だけではどうしようもなくって、なのはに助けを求めて。
 それから。
「〜〜っ!?」
 少しずつではあるが自らの痴態を思い出したフェイトは、絶句した。
 いつもならば恥ずかしくて、とてもではないが出来ないことを散々やってのけたのだ、自分は。
 思い出すだけで恥ずかしすぎて、恥ずかしさで死ねるなら今なら即死なのではないかとフェイトは思う。
「……もう、だめ……」
 それはもういろんな意味で。
 けれどそんなフェイトに、なのははぎゅ、と抱きついてきて。
「んー、でもわたしはすごく満足。もうフェイトちゃんすっごく可愛かったんだから」
 あまりに嬉しそうにそう言うものだから。
 なんかもういいかな、と思えてしまうフェイトだった。


  ◇


 その次の日。
 フェイトに関しては腰の痛み、という後遺症はあったものの、なんとか無事に学校に行けていた。
 ちなみにその原因であるはずのなのはは全く反省していない上に何故か健康そのもの、それどころか逆にいつもに増して元気だった。本人曰く、「フェイトちゃん分がメーター振り切るぐらい充電できたから」だそうだ。
 そして次の授業が体育であったので、なのは達が更衣室に行って着替えていると。
「あれ? なのは、それ虫刺され?」
「え?」
 アリサの言葉になのはが指差された自身の首を見ると、そこには赤い跡が。
 瞬間、空気が固まる。
 すずかは笑顔のまま。はやては目を見開いて。フェイトに至ってはもう真っ青な顔である。
――しまったすっかり忘れてたと言いますか、制服は首元隠れるからって油断してたと言いますか、何はともあれこれってよろしくない状況っ!?
 なのはも内心そんなことを思いつつも顔には出さない。つか出せない。
 どんなに気心知れた親友とは言え流石に、いやぁ昨日酔っ払ったフェイトちゃんにかわいくおねだりされながらつけられちゃった愛の印だよまいったねどうも、とか言えないし。
 そこまで言う必要性など皆無であったし、そもそも何とか言って誤魔化せばいいのに今のなのはにはそんなことを思いつく余裕がなかった。なんだかんだ言ってやはり小学生なのだ。こんな状況の回避の仕方など、武装隊では教えてくれない。当たり前だが。
 そのまま緊迫した空気が流れ続ける。誰も動くことが出来ない。ただ一人質問をしたアリサ以外。
「ねぇちょっと、一体どうしたっての――」
 だがその空気を破ってくれたのは、授業の始まりを告げるチャイムだった。
「あ!! このままじゃつぎのじゅぎょうにおくれちゃーう!」
「ほ、ほんとや、いそがんとー!」
「ほら、アリサちゃんも、はやくはやくー!」
「いそがないとちこくしちゃうよー!」
「え、ちょ、待ってよ、何でそんな棒読みっ!?」
 皆してナイスコンビネーション。急いで着替えを済ませると、手早く外に出て行ってしまった。


――もちろん、なのはとフェイトがこの後はやてにこっぴどく叱られたのは言うまでもない。

 

 


  ◇

 

 


 余談ではあるが。
「ねぇ、すずか、結局体育のときのアレって……」
「あ、ねぇアリサちゃん見て見て、お空があんなに綺麗だよー」
「え、ちょっとすずか話聞いて」
 この後しばらく、すずかはアリサからの質問攻めに苦労したとかしなかったとか。

 







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