「たっだいまー!」
 ドアを開け、上機嫌な声が家中に響く。
 ひょこっと顔を出した美由紀がおかえりなのは、と返す。
「おろ?やーだ、ユーノくん!久しぶりじゃない!」
 ひょこ、と頭を下げて、ユーノが挨拶する。
 また、遊びに来ました、と意味をこめて。

「キュッ!」

 

 なのはさん全開劇場「其は芳しき」

      かいたひと:ことり

 

 司書室の仕事を任されてから、結構経つ。
 まだまだ一人前とは言いがたいけど、無限書庫の管理って誰でもできることじゃないみたい。
 やればやるほどやることが増えていくから、適任者を見つけるのが難しいってのは、最近になってようやくわかってきた。
 残業どころか、一度調べ物に入れば一週間不眠不休とか言うことだって珍しくない。
 もともとボクは遺跡の発掘調査をやっていたから、休まずの仕事もある程度は慣れてたし。
 それになんでもコツコツやっていく、ある意味のんびり屋の気性もあってたのかな。

 まぁそんなこんなでなにかと忙しい仕事の中、久しぶりに休暇が取れたんで、なのはと一日町に出かけてて、ようやく帰宅したところ。
 ……内容はたいしたことないよ?
 映画見て、買い物して、お茶を飲みながらお話して……
 なんてことない、いつもの、でもボクには大事な時間。
 それでそのあとご挨拶と顔見せになのはの家に寄ったんだ。
 もちろんフェレットに変身した上でだけどね。
 ……いつかは人型で来なきゃなぁ……

「なのはちゃん、ご飯どうする?ユーノくんいるならもう作っちゃう?」
 桃子さんの声が台所から聞こえてくる。
 ようやく靴を脱ぎ終えたなのはが、顔を上げながら返事をした。
「あ、ごめんなさい、食べてきちゃったんだ。電話するの忘れてた」
「あらあら残念。ま、いいわ。じゃお風呂先にはいっちゃいなさい」
 そうしてきたら?となのはの顔を見上げる。
 その間美由紀さんにでもかまってもらおうかな。
 そう思って、なのはの肩からすとん、と降りる。
「んー……あ、いいや、じゃついでにユーノくん洗ってあげよう」
 離れようとしたところ、腹をわし、と掴まれる。

 ……はい?えと、なのはさん、今なんておっしゃいました?

 じたばたと暴れるボクを美由紀さんに渡して、ちょっと用意してくるね、と残して、なのはは階段を上っていった。

 いやいやいやいやえとあのなのはさんっ!?
 もももももしかしていっしょにおフロ入ろうとかいったんですかいまっ!?
 あのその家族の方だっているのにでもでもああああ。

 神様ありがとうございます。夢ならどうか覚めないで!

 

 

 

 うん。大丈夫。部族のみんな、ボクは元気です。落ち込んだりもするけれど。
 あと神様。二度と信じません。泣いてなんかないやい。
「……なんで泣いてるのユーノくん。……お湯熱い?」
 いやちっとも。とてもとても良い湯加減でございます。

 上下とも高校のジャージに着替えたなのはにゴムブラシで毛皮をこすってもらってるボク。
 洗面器の湯船はちょっと切ない。
「はーいお客様、かゆい所はございませんかー?」
 にこにこと笑いながらペット用シャンプーをかけられる。
 まぁなのはが楽しそうだし、こういうのも悪くはないかな……あ、そこそこ。

「でもなんで、いきなり洗うとか言い出したの?」
 ざーっとお湯をかけられ、ぷるぷると体を振る。
 飛び散るしぶきを手でよけながら、なのはが笑顔で答える。
「いや、なんとなくなんだけど……洗い立てのユーノくん抱いたら、ふかふかして気持ちよさそうだなー、って」
 ……喜んでいいのかどうかものすっごく微妙なんですけど。
 ペットというかぬいぐるみ扱いですかなのはさん。

 お湯で濡れた体を手で撫で付けられる。
 普段とは違った感触で……ちょっと気持ちいいかも。
「はーい、背中終わり。次前ね」
 くるん、と裏返されて。しゃぱぱぱ、とシャワーが降り注ぐ。
 顔にもかかるから、ぎゅっと目を閉じた。
 あのゴムブラシがいいんだよね。かゆいところ全部かいてくれるみたいで。

 ……なんかシャワーは止まったんだけど、一向にシャンプーがかかってくる様子がなくて。
 おそるおそる目を開けてみると、なのはが怒ったような、困ったような顔をして固まってた。
 あれ? あれれ? ボクなんか悪いことした?
「……ユーノくんのせっそーなし」
 え、え、なんのこと、とか思ってたら、なのはがじーっと一点を見つめてるのに気づいた。
 視線を追ってみるとそれは……えと、その……ボクの股間にそそがれていて。
「い、いやこれはあのっ! その、なんていうか単なる生理現象であってねっ!?」
 いやほんとに天地神明に誓って変なことは考えてませんでした!
 だってだって好きな子に手で体を洗ってもらったりしたら普通こうなりませんか!?

 パニくるボクの体を左手で掴んだまま。
 かりかりと、喉からおなかまで軽く引っかきながら指が降りていく。
 あ、あ、それ気持ちいい……(フェレットとして)
「ん……ユーノくん、あらったばっかなのに……なんだかくさいよ……?」
 そんな言葉が聞こえてきて、なのはの顔を見る。
 なんだかくさいとかいったわりに、あんまり嫌がってないような?
 ていうかそもそも何が臭いのボク?
 両手の匂いをふんふんと嗅ごうとすると、ぐいっと持ち上げられて、なのはの顔がすぐ近くにあった。
 くんくんと体をかぎまわられる。 湯気でのぼせてきたのか、赤くなった頬で……うわ、なんか色っぽい。
「あ、ここ……やだ、すごいにおい……くさいよ、くさいよ……」
 いやあの、なのはさんてば。臭いとかいうわりに、なんで嗅ぎ続けてるんですか!?
 しかもなんだか目がとろんとしてきて、スイッチ入ったみたいになっちゃってるし!
「んぁ……くさいのに……これ、我慢できない……もっと、嗅ぎたい……」
 そういえば今フェレットだった。イタチ科の精臭はそりゃすごいけど、なんでなのはが当てられるのさ!?
「ちょ、ちょっとなのは、しっかりして!そんなとこ嗅がないでよ!」
 あわてて叫ぶけど、もうなのはは聞いてないみたいだ。
 目を閉じてくんくんと、ボクの股間を一心不乱に嗅いでる。
 なんですかこの羞恥プレイは!?

「……ね、ユーノくん……ちょっとだけ……なめてもいい……?」
 思わず鼻血を出しそうになる言葉が出た。
 いや実際ちょっと出たかもしれない。
「な、なななななめるって何を!? やめてなのはさんやめてええええ!」
「やぁ……なめるぅ……なめるのぉ……」
 ちろ、となのはの紅色に染まった舌が触れた。
 その熱さにびくん、と体が強張る。
 う、うわ、これ以上はホントにやばいってなのは!
「くさいよぉ……すごいにおいで……ん、んんぅ……あたま、とけちゃいそう……はぁぁ……」
 ちろちろと蠢く舌に翻弄されて、快感が突き抜けた。
 うっとりした顔はすっかり出来上がっていて、
 凄絶な色気をかもし出してる。
 すでに舐めるなんて優しいものじゃなく、食べてしまいたいといわんばかりになのはの口の中で弄ばれてるボク。

「んちゅう……じゅる……ふあん……おいし……もっと、もっとほし……」
 うわ……だ、だめ、こんなの、スゴすぎる……我慢、できないっ……!
 うねる、からまる、からみつく、すわれる。
 味わいつくすことしか考えられなくなったなのはは、
 知りもしなかった動きでボクを攻め立ててくる。
「や、やめてなのは……でちゃ……でちゃう、よっ……!」
 情けない声で精一杯の抗議と警告をする。
 でもそんなことすらも、逆効果にしかならなかったようで。
「はぁ……らして……いっぱい、いっぱい、ほしいの……ゆーのくんの、なのはに、たくさんかけてぇ……」
 そう言いながら、口の動きをさらに早める。
 止めとばかりにじゅる、と強く吸われて、腰から下にしびれるような感覚が走った。
「あ、あ、あっ!」
 すごい音を立てながら、白い液体が放物線を描く。
 震えながら、嬉々として受け止めるなのは。
 髪に、顔に、口の中に。
「あ……あぁぁ……すご……すごい、におい……くあぁん……」
 心から嬉しそうに、飛沫を浴びながら。
 フェレットの小さい体のどこにこれだけのものがあったのだろうと思うぐらいに、射精はぜんぜん治まってくれなくて。


 もっと、もっととせがむなのはに、ボクはかけつづけた。

 

 

 

「ねーねー、いいでしょ? 教えてユーノくん」
「絶対だめです! 動機が不純すぎるじゃないか!」
 なのはの部屋。
 遮音用の簡易結界を張った中で、とうに人型に戻ったボクは、フェレットの変身魔法を教えてくれと言うなのはを怒っていた。
「えー……人間であれだけスゴかったんだから、私もフェレットになったら、きっともっとスゴいんだろうなって思っただけなのにー」
 思っただけってなんだ。
 さらりとものすごいこといってませんかなのはさん?
 まだ毒が抜けきってないんだろうか。
「だ、大体どうしてフェレットのフェロモンなんかにやられるのさ! そんなのおかしいだろ!?」
「えー、違うよ。フェレットに反応したんじゃないもん」
 そんなことを返しながら、ボクの背中に抱きつき、2、3度頬ずりして、また続ける。

「ユーノくんだから、あんなになっちゃったんだよ。フェレットのじゃなくて、ユーノくんのにおいだったから……」
 頭の中で、確実にぷちんと何かが切れる音がした。
 う、うわ、もう我慢できない。どうしよう。
「ね、明日もまだ、お休みなんでしょ? フェレットでもしてみたかったけど……このままでも、いいよ……いっぱい、して……?」
 ごめんなさいもう無理です。
 我ながらケダモノの目をして、振り向きざまになのはの体を押し倒す。
 洗い立ての髪の香りが鼻の奥をくすぐって、ボクの理性を最後の一滴まで絞りつくす。
「はやくぅ……はやくぅ……」
 そんな天使の誘惑に耐えられるはずもなく。

 

 

 今夜が長く長くなることを予感して、ボクはなのはに溺れていった。

 


          fin.

 







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